南アルプスの北岳「だけ」に咲く花、キタダケソウを見るために微妙な天気予報を顧みずにここまでやってきました。
2日目は必要な荷物だけを持って白根御池小屋を出発し、右俣の雪渓を登って北岳山荘へのトラバースでキタダケソウを撮影、そして北岳に登頂して肩の小屋経由でテント場に戻り、撤収して下山する…という足への負担が不安になる計画です。
- 白根御池小屋から右俣の雪渓を登る
- 八本歯のコルを超えてキタダケソウの咲くトラバースへ
- 北岳の固有種「キタダケソウ」
- 無事にキタダケソウを見ることができたので引き返す
- 国内標高第2位の虚無
- 北岳肩の小屋に到着
- 白根御池小屋に戻る
- テントを撤収して下山
- 広河原に到着
- 終わりに
白根御池小屋から右俣の雪渓を登る
準備を整えて午前4時36分に出発。
白根御池小屋から薄暗く鬱蒼とした登山道を歩いて大樺沢二俣の分岐に向かいます。分岐まではほぼ水平移動で、コースタイムは30分ほどです。
大樺沢二俣
1日目の移動中に購入したアプリ版の山と高原地図には「チップ制トイレ」の記載がありましたが、トイレらしきものは見当たりませんでした。
まだ6月末なので7月に入ってから設営するのかもしれません。
大樺沢二俣の分岐でいきなり雪渓が登場し、アイゼン無しでは歩けそうになかったので、持ってきた軽アイゼンを装備しました。
前日に白根御池小屋のスタッフの方に雪渓の状況や夏道が出ているかを確認したところ、夏道は無くずっと雪渓だと言われましたが、実際はそうでもなく歩ける場所は多少ではありますが存在していました。
とはいえノーアイゼンで登れるわけもなく、最低でも軽アイゼン、12本爪アイゼンなら安心…といった状況だと思います。
右俣の雪渓を行く
しばらく歩いていると背後から日が差してきましたが、
北岳は昨日から雲隠れしたままです。
あのガスの先に何が待っているかだいたい想像がつきますが、ここまで来た以上はやりきるしかありません。
今日はキタダケソウを見に来たのであって、ピークハントは「おまけ」…と自分に言い聞かせます。
雪渓終了
6時44分、大樺沢二俣から2時間弱でようやく雪渓が終わりました。
結局雪渓を歩いている最中は誰にも会いませんでした。
軽アイゼンはここで外して八本歯のコルに向けて一気に登っていきます。
ここで1名の登山者とすれ違いました。
階段が整備されていて安全に登れますが、なかなかの斜度です。
雪渓から見上げていたガスの中に入ってきたようです。
ある一定の標高から上がガス…といった感じなのかもしれません。
八本歯のコルを超えてキタダケソウの咲くトラバースへ
ハクサンイチゲが岩壁に花を咲かせていました。
こちらはイワベンケイでしょうか。
コルから木の階段でグイグイと高度を上げていくと、北岳山頂と北岳山荘に向かうトラバースの分岐に到着します。
キタダケソウは北岳山荘に向かうトラバースの途中に咲いているので、分岐を左に進んでいきます。
北岳の固有種「キタダケソウ」
北岳山荘に向かうトラーバースにはキタダケソウ以外にもハクサンイチゲやイワベンケイなどが目につきます。
遠目だとハクサンイチゲとキタダケソウの区別がつかないので、トラバースをゆっくり歩いてキタダケソウを探します。
そして…
いました!
キタダケソウです。
近くにハクサンイチゲも咲いているので見比べると違いは歴然です。
花弁が丸みを帯びていて、ハクサンイチゲよりも枚数が多いように見えます。あとは短く重なり合うようになっている葉もハクサンイチゲとは大きく異なるポイントです。
遠目には分かりませんが、よく見ると「あ、これがキタダケソウか」とすぐに分かると思います。
無事にキタダケソウを見ることができたので引き返す
とりあえずキタダケソウも見れたことですし、強風のなかこれ以上先へ進んでも戻るのが大変になるだけなので、来た道を戻って北岳の山頂を目指します。
木で作られた岩壁のトラバース道の手前に咲いていたキタダケソウ。
これを撮って引き返します。
ハクサンイチゲも綺麗ですが、キタダケソウは何というか控えめで上品な雰囲気があって素敵です。夏よりも少し前に北岳の一部にだけ咲く花というのがプレミア感があっていいですよね。
イワベンケイも風に吹かれてプルプルしていましたが、まだ花を咲かせる時期ではないようです。
国内標高第2位の虚無
北岳山荘のトラバースから山頂に向かう分岐に戻り、稜線に登っていくと横殴りの防風が襲い掛かってきました。
非常に強い風ではありますが、体がよろける程の風ではなかったので、歩くのに困るといったようなことはありませんでした。ただ半袖Tシャツの上にシェルだと動いていても結構寒かったので、OMMのSuperSonic Smockをシェルの下に着て防寒しました。
ガスのなか風に吹かれ景色も何もあったものではないので、無心で手足を動かして岩場を歩いていると山頂が見えてきました。
8時52分。
北岳の山頂に到着しました。
富士山に次ぐ国内第2位の標高を誇る北岳の山頂がこちら…。
肩を落とす僕を憐れむ(ように見えた)お地蔵さん。
まぁ今回はピークハントが目的じゃないし、何も見えない山頂にいても面白くないから肩の小屋に行ってコーラでも飲もう…と心の中で負け惜しみをつぶやきながら山頂を後にしました。
北岳周辺はキバナシャクナゲが見頃を迎えていました。
肩の小屋に近づくにつれて景色が少しずつ見えてきました。
どうやら北岳を覆うガスの境界線は山頂と肩の小屋の間に存在しているようです。
絶賛増築中の北岳肩の小屋が見えてきました。
この調子だと秋頃には完成するのではないでしょうか。
北岳肩の小屋に到着
9時25分。
北岳肩の小屋に到着しました。
肩の小屋のテント場
肩の小屋のテント場はまだ雪が残っており、テントを設営できるスペースはかなり限られています。6月下旬から7月初旬にここにテント泊される方は、雪の上に設営することも想定しておいた方がいいかもしれません。
コカ・コーラで休憩
肩の小屋で買ったコーラを飲みながら持ってきたカロリーメイトを食べました。
早朝に広河原のテント場から登ってこられた男性に北岳の状況を聞かれたので、見ての通りガスの中です…と伝えたら「この天気で登っても何も見えないから今回は引き返すかな」と登頂を諦めて下山していきました。
ここまで来たのだから山頂を踏まなければ損だ、と考える人もいますが僕も引き返した男性と同じタイプかもしれません。何年か前に苦労して槍ヶ岳山荘まで来たのに山頂がガスっているのを見て「まぁ前にも登ったからいいや」と登らずにスルーしたことがあります。
白根御池小屋に戻る
キタダケソウの撮影はうまくいったし、北岳の山頂にも立てたし、あとは白根御池小屋に戻ってテントを撤収して下山するだけです。
広河原から甲府駅に向かうバスが14時発で、14時を逃すと次のバスが16時40分で、そこから甲府駅まで2時間、電車に乗り換えて自宅まで…となると帰りが遅くなってしまいます。
山と高原地図の標準コースタイム通りに歩けばバスの出発時間には間に合いますが、僕の場合は登りは巻けても下りは巻けないタイプのハイカー(体重が重く足へのダメージが大きいので途中でバテる)なので油断は禁物です。
肩の小屋そばのお花畑
北岳肩の小屋を出てすぐの稜線に高山植物がたくさん咲いていました。
派手ではありませんが小さな可愛らしい花たちが斜面に群生しています。
強風に揺られていた北岳山頂そばのハクサンイチゲと比べるとこちらは随分と平和そうです。
こちらはキンロバイでしょうか。
高山植物で彩られた登山道を歩くのは楽しいですね。
楽しい稜線歩き
北岳山頂付近では真っ白で何も見えませんでしたが、肩の小屋あたりから陽の光が入って、景色もまあまあ見えるようになってきました。
久しぶりのアルプスの稜線はテンションが上がります。
肩の小屋から歩く稜線は僅かな時間ですが、久しぶりに雄大な景色を見ながら歩くことができたので良かったです。
草すべり
北岳肩の小屋から始まった楽しい稜線歩きもあっという間。
小太郎尾根分岐からどんどん標高を下げ、草すべりに入ります。
下っている途中で広河原が見えました。
まだまだ先は長い…。
草すべりは小太郎尾根分岐から少し下ったところから白根御池小屋まで続く急坂で、登りで使うにはなかなか骨の折れるルートではありますが、下りはそれほど大変ではありません。
立ち止まって空を見ると夏の昼下がりのような、もくもくとした雲が湧き上がっていました。午後から天気が崩れるという予報もあったので、雨に降られる前に広河原まで戻りたいところ…。
草すべりからは今朝登った右俣が見えました。
こんなに急な斜面だったかな?
白根御池が見えてきました。
このあたりで右足の親指にマメができたことに気が付き、体重の掛け方によって痛みが出るようになってきました。
そして大腿四頭筋に疲労が蓄積してきているのを歩くたびに感じるようになりました。
テントを撤収して下山
11時30分頃に白根御池小屋に戻ってきました。
30分ほどで撤収して出発しないとバスに間に合わない可能性があるので、テントの中にあるものを手当たり次第に外に出して、バックパックに詰め込んで12時少し前くらいに白根御池小屋を出発しました。
その後は黙々と歩いて広河原に向かいます。
草すべりあたりから右足親指のマメが痛み出し、右足の踏み込みが甘く左足でカバーしていたら左足の膝に若干の違和感が出始めました。(白根御池小屋を出る時点で両足にサポーターを装着済)
そして大腿四頭筋の疲労がピークに近づいてきたのか、徐々に踏ん張りがきかなくなってきました。
広河原に到着
そして13時40分頃にヘロヘロになりながら広河原に帰ってきました。
チケット売り場で甲府駅行のチケットを購入し、到着したバスの座席に荷物を置き、新しくなった広河原山荘の自動販売機でデカビタを買って一気に飲み干してバスに戻りました。
時間に余裕があれば広河原山荘でシャワーを浴びて、1階の食堂で腹ごしらえできたのですが…。
14時に出発したバスに約2時間ほど揺られて甲府駅まで戻ってきました。
行きの路線バス2時間もまあまあ辛かったですが、疲労困憊で足がボロボロになった状態で乗る狭い座席の路線バスもなかなかの辛さでした。
バスはほぼ時間通りに甲府駅に到着。
駅前の広場でズボンや靴の汚れを除菌シートでふき取り、駅のトイレで持ってきた着替えに着替えて、甲府駅をあとにしました。
終わりに
ゴールデンウィーク依頼のテント泊登山、5月下旬以来の登山ということで、身体が鈍っていたようで、特に下山時は疲労が脚にきて大変でした。
天気も微妙で山頂からの展望はゼロでしたが、キタダケソウを見ることができたし、肩の小屋以降は景色もまあまあ楽しめたので、これはこれでなかなか良かったのではないかと思っています。
ちょうど下山した日のニュースで関東甲信越の梅雨明けが発表されました。
いよいよ夏山シーズンが始まります。
これから登りたい山、行きたい山域を無理なく歩くために今回は良い準備運動になったんじゃないかな?と思っています。